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・ 長安寺は、近いのか遠いのか判らなくなるお寺だ。
トレッキングコースの途中に建ってなかったか、この寺は?
「親戚の家に遊びに来たみたい」 と鏡子さんは言った。
言われてみれば──僕も思わなくはない。
住宅の中に寺がある。 本堂から右に廊下があるから、そのままプライベートな居住空間に入れてしまうような気がする。
本堂も、荘厳さを感じない。
開け放たれ、自然光が隅々まで行き渡る「部屋」。それが本堂だ。
「やっぱり境内が好きなのよ。自然がいっぱいで」
同感です。 僕も紅葉の時季、この寺の境内の美しさに息を呑んだ一人だ。
寺宝として納経板がある。 厳島の平家納経ほど有名ではないが、国東にも有るということが誇らしい。
「見ていきますか?」 僕が訊くと、 鏡子さんは、 「声に出して読んじゃうわよ」 と笑った。
僕も読みますよ。 法華経だし。 楷書だし。
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